ヴィヴェーカ・チューダーマニ(識別の宝玉)について

 
 

不二一元論を説くシャンカラによる
ヴィヴェーカチューダーマニは、全てで約580の詩句(シュローカ)からなり 
導師とその弟子との対話という形で 
人はいかにすれば解脱出来るかを
美しく印象的な詩句を用いて説いていきます。

解脱とは、輪廻転生(サンサーラ)からの解放のことであり 
そのためには、アートマンと、非アートマンの識別をしなければならず
それには、アディヤーサ(間違った同一視)を理解し、それを捨てねばならないとされます。 
さらに、人間の意識とはいかなるものか、を、まるで肉体を解剖するように
詳しく切り込んで解説していき
アートマンを覆う五つの鞘、
意識の三状態である、覚醒、夢眠、熟睡、そしてアートマン、無知との関係、
ミティヤーとは、
束縛と解放とは、
ブラフマンとは如何なるものか、
タット・トワム・アシ(汝はそれである)、
ニルヴィカルパ・サマーディ、
ジーヴァンムクティについて、
悟りの境地とはいかなるものか、
などが解説されていきます。
つまりこの書は、悟りへの手引書といえます。

最後に弟子は解脱を果たし、その境地を吐露しますが
実際にはそんなに簡単ではないようです。 

内容的には、ウパニシャドからその思想の精髄を取り出したもので、
それをシャンカラが、一般人にも分かりやすいように組みなおしたもののようです。
おそらく他に同じようなものは存在しないと思われます。

独立したシャンカラの著作、つまり解説書でない作品は、このほかにウパデーシャ・サーハスリー(千の教説)がありますが、これはどちらかというと、作品全体のまとまりに欠けており、一方、ヴィヴェーカ・チューダーマニは、始めから終わりまで一貫した思考の流れがあり、一般人にはより理解しやすいかと思われます。学会の一部には、シャンカラ自身の著作ではないという意見もありますが、インドにおいてはラマナ・マハルシなどの多くの聖者が、その権威を信じて、信仰の拠り所としています。いわんや我々においては、その聖典としての価値は、非常に大きなものだと思われます。