まえがき
 

 人間はどこからきてどこへ行くのか、この究極的な疑問に答えるのがウパニシャッドであり、それは長きにわたって、導師と弟子の間の秘密の教えとして、文字にされることなく、インド亜大陸にて伝えられてきました。そこでは人間の本質をアートマンと、そして真の実在をブラフマンと説き、その両者は異ならないことを、多くの教説を用いて説明しています。だがその解釈はしばしば難しく、過去より幾人もの聖者が現われて、独自の立場に基づき、注釈を試みてきました。中でもシャンカラは傑出した存在で、彼の唱えた不二一元論は、その後のヒンドゥー教世界に多大な影響を及ぼし、その叡智はまるで曙光のように輝き、今日でも人々に示唆と霊感を与え続けています。
 
 そんなシャンカラは、ヴェーダーンタを学ぶ人々の為に、ウパニシャッド、バガヴァット・ギーター、及びブラフマ・スートラの各注釈書を著し、さらにウパデーシャ・サーハスリーにおいて自らの考えを要約して、また神々を信じる人の為には、多くの讃美歌を奏上し、信仰心の育成に寄与しました。そして一般の人に向けては、ヴィヴェーカ・チューダーマニを書きあげ、その中でウパニシャッドの要旨を明快にまとめて、魅力あふれるその詩句により、過去一千年以上もの間、人々を魅了してきました。今回、それをサンスクリット語から直接に翻訳し、その内容を、インド最高聖典であるバガヴァット・ギーター、および堀田和成氏の説く「正道」から、解明せんと試みたものです。
 
 偉大な導師であられる堀田和成氏は、一九二六年に生を受けられ、四十三歳から八十八歳に至るまで、まことに多くの著作と講演、御講話、個人指導によって、人々を導いてこられました。その語られた内容のすべてを文字にするなら、千巻のこのような書物をもってしてでも、網羅することは不可能と思われます。ブラフマンを悟られた魂の導師、堀田和成氏の教えが、どうか広く世界に伝わり、迷える人々の道標とならんことを、心より祈願いたしたく思います。

平成二十六年九月 著者